公益社団法人東京生薬協会公益社団法人東京生薬協会

薬用動植物国内栽培事業

新潟県新潟市 Niigata City

新潟県の県庁所在地としての「大都市の顔」と、全国の市町村で最大の水田耕地面積を有する「米どころの顔」をもつ新潟市。 稲作の印象が強い新潟市の農業ですが、野菜、花卉、果樹などの栽培も盛んで、市南部にある農業活性化研究センターではこれら作物の栽培実証や土壌診断、相談事業などを通じて農業者への支援を行っています。
新潟市とは2014(平成26)年3月に連携協定が締結され、同センターが主体となって栽培事業への取り組みが継続されています。

 

新潟市における栽培品目

チリメンジソ、シャクヤク、ミシマサイコ、ハマボウフウ、トウキ、キキョウ、コガネバナ、キクバオウレン、チョウセンゴミシなど、全23品目36系統
太字は出荷実績、あるいは出荷段階にある品目)
後述のように系統収集と原種苗の管理を同センターが担っているため、栽培品目が多岐にわたっています。

 

研究と生産の【農福連携】

農業活性化研究センターは、旧・新潟市園芸センターの試験研究部門を承継して平成25(2013)年6月に開設されました。 敷地面積3.7ヘクタール、うち栽培ほ場(露地+温室)が約1.2ヘクタール、温室(ハウス)16棟の設備を有しています。 生産者に一番近い試験研究機関として、管内JA等の各機関と連携した試験、生産者への説明会、次世代への教育・啓発として小中学生への見学プログラムなどの活動が行われています。


新潟市農業活性化研究センター


福祉作業所圃場のチリメンジソ
(新潟市農業活性化研究センター提供)

薬用植物栽培事業においては、同センターが薬用植物各系統の収集と原種苗の維持・栽培研究を担う一方、薬用植物生産~出荷段階は、農業を行う福祉作業所が担当されています。
福祉作業所には薬用植物の圃場があって、前述のチリメンジソ(生薬名:ソヨウ)は令和元年度より京都府の実需者へ向けて出荷実績があります。
またシャクヤクは平成30年度より福祉作業所での栽培に着手し、近く実需者への出荷を見込んでいる等、農福連携型の生産事例を積み重ねています。

 

優良系統を未来へつなぐ

農業活性化研究センターによる系統収集と原種苗管理の目的は、まず新潟市内で薬用植物の生産を増やすことにあります。
さらに今後、日本各地での生産が増加すれば、それら各産地へ種苗を供給する生産者も必要となります。 その段階を見越して、生産者へ原種苗を供給できる体制の構築が進められています。


コガネバナ(生薬名:オウゴン)
(新潟市農業活性化研究センター提供)


各系統のチョウセンゴミシ

薬用植物特有の課題として、作付けのしやすさとは別に、生薬の品質基準をクリアしなければならない点があります。 局方に規定される性状に加え、実需者各社が設ける形態・成分等の基準を満たす品質のものを、いかに収量よく得ていけるかを検討する必要があります。
キキョウ、シャクヤクなど地下部を収穫するものは、生育途中で逐一確認ができないため、栽培の成功・失敗の各事例からフィードバックする形で知見の集積が進められており、失敗もまた大切なデータとなります。


種子更新用に栽培されるトウキ


ハマボウフウ
新潟市自生由来の系統も維持されている

遺伝的に多様な在来の薬用植物を、限られた圃場面積で少しでも多く試験、維持するため、増殖方法(種子増殖あるいは株分けなど)に応じて工夫しながら栽培が続けられています。
またセリ科など、種子寿命が短い薬用植物では定期的に播種・栽培して次世代の種子を得る「種子更新」が不可欠です。圃場の効果的な利用の上で最適な種子更新のインターバルを探るなど、より効果的な系統維持を目指して、たゆみない取り組みが続けられています。

 

米どころならではの、薬用植物栽培

薬用植物は、ほぼすべての品目で栽培に複数年を要します。これは稲作との大きな相違点であり、米どころ新潟において薬用植物栽培に馴染みのなかった生産者が意欲的に取り組めるよう、普及への足掛かりを確立することも課題です。また修治(収穫後の加工)も生産者にとっては初めての作業となるため、既存の機械を活用しながら省力化し、実需者に受け入れられる形状が検討されています。
農福連携型の体制の中で、新潟市の公的機関としての農業活性化研究センターが果たす役割は、今後ますます増大してゆくこととなるでしょう。

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