公益社団法人東京生薬協会公益社団法人東京生薬協会

薬用動植物国内栽培事業

大分県杵築市 Kitsuki City

杵築市は、大分県北東部の国東半島の付け根に位置し、杵築藩の城下町として発展してきた都市であり、大分空港に近いアクセスの優位性と、歴史ある町並みを観光資源とした調和の取れた立地を特色としています。杵築市とは平成27(2015)年7月に薬用植物栽培に関する連携協定を締結いたしました。
杵築市における薬用植物栽培事業は、杵築市農林水産課および公益社団法人杵築市地域活性化センター(以下、活性化センター)が主体となって取り組んでおり、市内山香(やまが)地区(旧・山香町域)を中心に複数の圃場で栽培を手掛けています。


城下町の情景を伝える「酢屋の坂」


山香圃場で試験栽培される各種の薬用植物

 

杵築市における栽培品目

キキョウ、ミシマサイコ、カワラヨモギ、メハジキ、ムラサキ、ジャノヒゲ、ホソバオケラ、トウキ、カノコソウ、キバナオウギ、コガネバナ、ベニバナ、シャクヤク、カラスビシャク、ハナスゲ、ウラルカンゾウ(太字は出荷実績あり)
キキョウ、ミシマサイコは、生薬として出荷中。
カワラヨモギは、花穂部を柑橘類用防カビ剤の製造原料として出荷が行われています。

 

応用のフェーズへ入った、杵築の薬用植物栽培

薬用動植物国内栽培事業中の7拠点のうち、杵築市は最も南にあり温暖な気候です。このためセンキュウやエゾウコギなど冷涼地原産の植物では成果が上がりにくいことは初期段階で判明しており、地の利を活かした品目選定を進めてきました。加えて、たとえば同じキキョウであっても、緯度や気候の異なる他産地での成功パターンが杵築でも成功するとは限りません。杵築市の気候・環境に最適な作型は、杵築市での試験栽培を通じて確立する必要がありました。
前述のキキョウでは、2020年までの6年間に、播種に用いるポットの仕様、播種・定植のタイミングから畝間・株間のとり方、追肥の時期・回数など、諸条件の比較検討を繰り返してきました。それらトライ&エラーの中から、定植1年目の夏に追肥、2年目に摘心という基本作型を確立するに至り、いよいよ本格的に実生産への応用フェーズに転換した段階です。


定植を待つキキョウの実生苗
(活性化センターにて)


ミシマサイコの苗

収穫後の調製(修治)についても、各拠点同様に杵築市においても創意工夫を重ねています。
出荷されたキキョウの用途として最も主力である生薬製剤では、生薬の粉末がそのまま剤形に反映されるため、原料生薬にはとりわけ「白さ」が求められます。収穫時期は冷涼な方が変色が少なく、収穫後の洗浄〜皮去り作業までのタイムラグ等によってもキキョウ根の白色度に差異が出ることが、これまで得られた知見から明確になっていますので、それを踏まえた収穫ならびに後加工の段取りを組んでいます。

 

現場力とチームワークの「杵築スタイル」

前述したキキョウ2年目の摘心作業は、開花の始まる6月頃が適期です。取材時はまさに摘心作業中で、農作業ボランティアがチームを組み、1畝を10分ほどで完了するスピーディな作業が進行しており、チームワークが杵築のエネルギーとなっている様子を写真に収めることができました。
十数名の農作業ボランティアのほぼ全員がSNSを利用しており、オンライングループ上で各人がアイデアや提案を活発に発信できるフラットな組織となっています。オンラインで情報共有する素地が早期に完成していたため、現状の感染拡大下でも必要に応じリモートで、必要な作業と情報共有がリアルタイムでなされ、成果の向上と「いい雰囲気」の醸成・維持に役立っています。


摘心作業の模様


ボランティアへの作業説明・情報共有

 

さらなる改良への取り組み

山間部の水田が耕作放棄地となりやすいことは全国の農業に共通の問題です。水田からの転作時に問題となるのが耕盤(こうばん)の存在で、特に地下部を用いる薬用植物では、耕盤が浅いと生薬の形状に影響し、ひいては修治の効率にも響いてきます。
杵築市では、活性化センターの協力のもと、専用の農機具を用いた深耕により水田時の耕盤を破砕し、土壌深部までの通気・通水性を改善する試みに着手しています。これにより形状品質に優れた生薬、たとえばキキョウであれば太く真っ直ぐな根の生産が期待されます。


深耕した圃場へのミシマサイコ苗の定植


筒栽培によるウラルカンゾウの生育状況

新たな生産品目の調査検討も継続中です。漢方処方のおよそ7割に配剤される重要生薬のカンゾウ(甘草)は、国内栽培の振興が期待される代表的な品目であり、杵築市においても、活性化センター内圃場の一角でウラルカンゾウを栽培試験中です。
2022年の春を目処に薬用部分となる地下部の成分分析を行って、良好であれば栽培品目として検討できると考えています。

 

現場力が活きる杵築の未来

取材を通じて感じたのが、杵築市の「現場力」の強さです。ボランティアへの作業説明や打合せも、写真のとおり会議室ではなく農業倉庫で開かれており、質疑応答も活発で「現場ファースト&チームワーク」を強く感じられる一場面でした。継続的な改良の機運と雰囲気づくりが「杵築スタイル」として定着している状況をお知らせできたと思います。
結びに、Covid-19感染拡大が依然続く中での訪問取材となり、感染対策には細心の注意を払ってきた次第ですが、何よりも杵築市の皆さまが快く受け入れてくださったことに最大の感謝を申し上げます。

▲このページの最上部へ